月夜に笑った悪魔
***
「美鈴……!」
マンションの部屋へと到着してチャイムを押せば、和正が鍵を開けてくれた。
スーツに身を包んだ、黒髪の男性。
……変わらない、和正の姿。
「……久しぶり」
小さく返して足を踏み入れた瞬間、私は腕をつかまれて引き寄せられ……強く抱きしめられた。
……懐かしい匂い。
体温もまだしっかり覚えてる。
……大好きだった。
和正に抱きしめられるのは、本当に大好きだった。
でも、この手でほかの女の子に触れて、抱いたと思うと……今はぜんぜん嬉しくない。
嫌悪感しか感じない。
「ちょっ、やめて……!私、そういうつもりで来たわけじゃない……っ」
強く胸を押して、距離をとる。
和正は浮気しといて、どういうつもりで私にこんなことを……。
心の中を一気にかき乱されて、こぼれ落ちそうになった涙を必死で我慢。
「……ごめん美鈴。また会えたことが本当にうれしくて、つい……」
「私は、話をするつもりで来たの……。話す気がないんだったら今すぐ帰る」