月夜に笑った悪魔
すぐに玄関のドアノブに手をかけた、が……。
パシッと手をつかまれ、引きとめられて。
「ごめん美鈴!ちゃんと話をさせてくれないか……!最後に、ちゃんと話して謝罪させてほしい!」
必死に言う和正。
振り向けば、彼は必死な表情をしていて……私は、ドアノブから手を離した。
「……じゃあちゃんと話そう」
それを見た和正は、私のつかんだ手を離す。
私は彼へと向き直って、まっすぐ目を見つめた。
話すと言っても、和正からいろいろ聞いて、私から話す言葉は『今までありがとう』と『さよなら』のふた言ていど。
よりを戻す気なんて本当の本当に、これっぽっちもない。
和正は私になにかが足りなかったから心が揺れて、ほかの女の人と浮気をしてしまったわけで……。
お互いを満足させることができないのであれば、そんなの一緒にいても辛いだけだろう。
「……玄関で話すのもあれだし、最後にお茶でも出すよ。あがって」
「ううん、ここで話す」
部屋にあがれば、たくさんの楽しかった思い出がよみがえってしまう。
だから、私はそう返してここから動かなかった。