月夜に笑った悪魔


神様はひどいことをする。

私は傘もなにも持ってないのに。
こんなことがあった日くらいは、雨を降らせなくてもいいんじゃないか。


空を見ていれば、急に頭にパサっとかぶせられたもの。
お兄さんが着ていた、ジャケット。


今まで着ていたものだから、ほんのり温かさを感じる。
いい匂いもして……イケメンはやっぱりいい匂いなんだなとぼんやり思った。





「俺が一生可愛がってやるから、来いよ」


腕を引っ張られて、歩き出すお兄さん。


「……可愛がる?」


ふらふらと足を動かしながら、後ろ姿に聞く。


「拾ってやるよ」
「?」


「住むところ用意してやる。条件付きで」


耳に届いたのは、今の私には嬉しい言葉。
このままじゃ本当にホームレスになるところだったから。

でも……。


「私、お金1円も持ってないよ?」
「金はいらねぇよ」


なんと。
お金はいらない?


お兄さん、優しすぎでは?


「住むところだけじゃなくて、ご飯もほしいなぁ」


優しさに甘えすぎてはだめだというのはわかっているつもりだが、やっぱり自分で自分がとめられない。

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