月夜に笑った悪魔


まぁ、誰だって怖がられるのは嫌だよね……。


「もう……目、閉じて」


彼の頬にそっと触れて、小さな声で言う。
それを聞いた彼は、目を瞑ってくれて。


ゆっくり顔を近づける。





整った顔。
薄く、おさまった形のいい唇。


見ていれば心臓がさらに加速して、壊れそう。
至近距離まできたところで、私も目を瞑り……。



やがて、触れ合った唇。






ちょんっと柔らかい唇と触れ合って、すぐに体を離した。


確かに触れ合った。
時間は短くても、ちゃんとキスした。


これで、ぜんぶ許してもらえる……!




心臓が激しく暴れる。
本当に一瞬だけのキスだったのに、顔が熱くなっていく。



目を開ける、暁。
彼はなにも言わず、なぜか私を見つめてくる。


「な、なにさ、言われた通りちゃんとキスしたでしょ。今さらこれで許さない、とか言うのはナシだからね」
「……まじで口にしてもらえるとは」


小さく聞こえてくる声。


「え?」
「キス、口にしろとは言ってねぇからほかのところにされるもんだと」



そう言われて、思い出す。
……口にしろ、とは言われてない。

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