月夜に笑った悪魔


キスっていえば、口だと思うじゃん?
真っ先に、口と口でするキスだと思うじゃん?


思う……よね!?





「……っ!」


込み上げてくる羞恥。
熱を持った顔がさらに熱くなっていく。


「キス、2回目だな?」


暁がにやりと笑うから体温は上昇するばかり。


あまりの恥ずかしさで耐えられなくなった私は、くるりと後ろを向いて膝を抱えて座った。
顔も隠して、ただその場に小さくなる。



……人って、どうやったら一部の記憶だけなくせるんだろう。

人生ではじめて、そんなことを真剣に考えた瞬間。




「そっち向くなよ」


長い指先が私の髪に触に触れる。


「……やだ」
「顔見せろ」


「……やだ。私、もう行くから」


一部の記憶だけなくす方法も思いつかず、この場から逃げようと立ち上がる、が。



「行くなって。まだちょっとしか話してねぇじゃん」


彼は私のワンピースの裾をつかんで離さない。

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