月夜に笑った悪魔


優ししい表情。

その顔を見れば、心臓が大きく飛び跳ねる。



な、なんだ、急に可愛いって……!
そういうの、急に言うのはよくないと思うんだけど!?


……その顔も心臓に悪い。






「こっち来いよ。今すげぇ抱きしめたい」


緩く握られた手を、軽く引かれる。
まだ力が入らないのか弱い力。


私が動かなければ縮まることのない距離。



だ、抱きしめたい、ってなにさ……!?
可愛いの次は抱きしめたい、って……本当に急になんなんだ!





「そんなことよりキスしたんだからさっきの早く教えてよ……!」


暁のペースに流されないように話を元に戻すと、彼は私の手を軽く引っぱったまま、


「俺が小1の頃」


と、ひと言答える。


「えっ」



まさかの、ぜんぜん予想していなかった返事。


……小学生の時?
小学1年生で、私のことを好きに?

そんなに前って……



「会ってたの!?」


驚いて大きな声が出る。


私はまったく記憶にない。
一条暁という名前もまったく記憶にない。


あまりにもびっくりすることで目を見開いていれば、彼は目を瞑って。



「キス1回」


とまた言った。


……どうやら、いちいちキスしないと教えてくれないみたい。

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