月夜に笑った悪魔



……これは、完全にやらかした。
怒らせた、かも。




「暁……だめなの」


ぼそっと聞こえてくる小さな声。


部屋には、芽依と2人。
彼女以外に話す人はいない。


芽依のほうを見れば、彼女は確かに目を開けていた。
そして。



「暁、暗いところで後ろから抱きつかれるのは……だめなの」


しっかりと芽依の声が耳に届く。


「……え?」


……それは、いったい。


「お母さんが亡くなった時のこと、思い出しちゃうんだって……。だから、やめてあげてほしい……」


首を傾げる私に、そう言った芽依。





……暁の、お母さん。
暁のお母さんは……彼の目の前で殺された、と聞いた。


その出来事は、彼が月城組に復讐したいと思うほど深いもので……。
トラウマを、思い出させてしまったんだ。



私は体を起こし、すぐに後を追おうとしたが。


「……そっとしておいてあげて」


すぐに芽依に腕をつかまれてとめられた。


「でも……」
「……そっとしておくのが1番いいの」


まっすぐに瞳を見つめられて、私はあとを追うことをやめた。





その後、それぞれの布団へと戻ったけれど……
暁がこの部屋に戻ってくることはなかった。
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