月夜に笑った悪魔
「ねぇ、みんな置いてってるから早くもどらないと──」
「だれ?」
私の声は遮られ、壁に体を押し付けられる。
両頬の横についた大きな手。
目をまっすぐ見られて……この時、今日はじめて目がちゃんと合ったような気がした。
「……え?」
「あの男、誰?前も親しそうに話してたろ」
不機嫌そうに聞いてくる彼。
“前にも”ということは、暁も潜入捜査ではやとと会っていたことを覚えていたのか。
「……昔の知り合い」
「元カレ?」
「ちがう!友だち……?」
つい、疑問形になってしまった。
はやととは友だちなのかよくわからなかったから。
“はやと”がたぶん本名なんだろうけど、フルネームは知らないし……友だちと言えるのか。
「なんで疑問形なんだよ」
私の返事を聞いた彼はさらに不機嫌そうに。
「いや、フルネーム知らないから友だちって言えるのかなって……」
「昔の知り合いって、つまりどーいう関係?」
「話せば長くなるんだけど……」
「言えよ」
顔を近づけてきて、迫り来る。
壁に追いつめられた私に逃げる場所などない。