月夜に笑った悪魔



「ねぇ、みんな置いてってるから早くもどらないと──」
「だれ?」


私の声は遮られ、壁に体を押し付けられる。
両頬の横についた大きな手。


目をまっすぐ見られて……この時、今日はじめて目がちゃんと合ったような気がした。



「……え?」
「あの男、誰?前も親しそうに話してたろ」


不機嫌そうに聞いてくる彼。


“前にも”ということは、暁も潜入捜査ではやとと会っていたことを覚えていたのか。


「……昔の知り合い」
「元カレ?」


「ちがう!友だち……?」


つい、疑問形になってしまった。
はやととは友だちなのかよくわからなかったから。


“はやと”がたぶん本名なんだろうけど、フルネームは知らないし……友だちと言えるのか。



「なんで疑問形なんだよ」


私の返事を聞いた彼はさらに不機嫌そうに。


「いや、フルネーム知らないから友だちって言えるのかなって……」
「昔の知り合いって、つまりどーいう関係?」


「話せば長くなるんだけど……」
「言えよ」



顔を近づけてきて、迫り来る。
壁に追いつめられた私に逃げる場所などない。

< 227 / 615 >

この作品をシェア

pagetop