月夜に笑った悪魔
「どいて……!」
必死に言っても離れてくれる様子はなくて。
こうなったら……。
私はまた、彼の足を思いっきり踏んずけた。
けれど……彼にダメージはちっともない。
少しも離れてくれないし、痛がるどころかむしろなんか笑ってる。
……ドMかと思うほど。
「凶暴だな」
「凶暴な女が嫌だったらさっさとどいて!」
「その凶暴な女が好きだからどかねぇ」
「…………」
なんなんだ。
……また、さらっと“好き”って言うとか。
ほんと、意味がわかんない。
だいたい私のさっきの言葉、ちゃんと聞いてた!?
「気にしてた?」
急に聞かれる。
「……なにが」
「俺が他の女といたから気にしてた?俺のことばっか考えてた?」
「……はい?」
なんだその質問。
そろそろ本気で怒るよ?
「芽依のこと、ちゃんと話すから聞けよ」
ぎゅっと拳を握れば、頭の上に置かれた手。
……芽依のこと?
彼の胸を押す手をピタリととめれば。
「暁……っ!」
聞こえてきた声。