月夜に笑った悪魔
不安の雨


少し離れたところのトイレ。


戻りたくない、という気持ちがありゆっくり手を洗う。



……早く帰りたい。
帰っても暁と芽依はくっついてるだろうからなにも変わらないと思うけど……。


こんなことが続くなら、もう早く夏休みが終わればいいのに。



そう思いながらハンカチで手を拭いて。
目の前の鏡を見て髪を整えていると、ふと鏡に映った人物。





その人物とは、芽依。


鏡越しで目が合って、彼女はすぐに目を逸らすと私から離れたところで化粧をなおしはじめた。



……中学生でメイクしてるんだ。
私、今すっぴんなんだけど……。


なんだかいろいろと負けた気分。




「……こっち見ないで、おばさん」


思わず鏡越しにじっと見ていれば、気づかれてしまったみたいで芽依に注意される。


また“おばさん”って言われた。
……別にいいもんね、私は年上だからそれくらいもう気にしないから。




「はいはい」


軽く返事をしてハンカチを鞄の中にしまったあと、次にトイレへと入ってきた人物。


知らない人だったからすぐに目を逸らせば……──。





「動かないで」


女性の声が耳に届いた。

< 231 / 615 >

この作品をシェア

pagetop