月夜に笑った悪魔
私が個室に入った時には、誰もいなかった。
だから、今人が来るまでここにいるのは私と芽依の2人だった。
芽依のほうから声が聞こえてきたから、芽依の知り合いかと思ったが……『動かないで』というのはなんだかおかしい気がして。
鏡越しに芽依を見て、目に入ったその光景に私は思わず振り向いた。
「動かないでって言ってるでしょ。如月組の娘、殺すわよ?」
黒いスーツ姿、長い髪をポニーテルにした20代くらいの女性。
その人が、芽依の首元に当てていたのは……ナイフ。
ドクリと心臓が嫌な音を立てるのがわかった。
「一条組の女と如月組の娘ね。こんなところに来てくれてラッキーだわ」
女性はナイフを持っている手とは反対の手で芽依の髪を撫でる。
……この人、私たちのことを知って?
ということは……組関係の人間だろうか。
どうしよう……。
助けを呼ぼうにも叫んだりしたら芽依の身が危ないし、スマホなんて壊したから持っていないし……。