月夜に笑った悪魔
鏡越しに見える、青ざめた顔の芽依。
「どっちか連れていくだけで充分だし、行きましょうかおチビちゃん」
女性は芽依の背中にナイフをしっかり突きつけたまま引っ張り、トイレから出ようとするから、私は「待って!」と呼びとめた。
すると、ピタリと足をとめてくれて。
「なに?あんまり大声出すとこのおチビちゃん殺しちゃうわよ?」
私に向けられる視線。
心臓がはやく動くれけれど、しっかり息を吸って声を出した。
「ねぇ……その子を解放して」
「するわけないでしょ。お願いでもしたら聞いてくれるとでも思ってんの?」
「……一条組若頭の女も、それなりの価値はあるんじゃない?」
冷たい瞳。
目を合わせるだけでも恐怖を感じる。
けれど、目を逸らさなかった。
「あぁ、あなたが代わりに来るってこと?」
「私と芽依のどっちでもいいんでしょ?だったら私がついていくから、その子は解放してあげて」
ついて行って、なにをされるかわからない。
でも、このまま芽依が連れていかれるところを大人しく見ていることもできなくて、言ってしまった。