月夜に笑った悪魔
それが終われば離れていく足音。
階段を下りていくから、ゆっくり目を開けた。
「若頭……っ!」
下から聞こえてきたのは、女性の声。
私にナイフを突きつけていたあの女性は……月城岳という男を見て言った。
“若頭”ということは……──月城岳という男は、月城組の若頭。
ただ者ではないと思ったけど、若頭だったんだ……。
「うちのかわいい部下たち返せよな」
明るい声が聞こえてくるけど、やっぱり恐怖は消えない。
月城岳は絵音に倒された2人を起こして、まだ上にいた黒服姿の2人も呼ぶと。
「じゃあまた会おうな、一条組」
最後ににこりと笑って手を振り。
すぐにこの場を去って行った月城組。
月城組がいなくなった瞬間、聞こえてきたのは強い雨の音。
この場に3人だけになれば、急に抜ける足の力。
ペタンと座り込んでしまって、立てない。
まだ、ドクドクとはやく動いている心臓。
変な汗まで出てきて、恐怖は少しも消えない。
「月城岳……、おまえは絶対俺が殺す」
強い恨みが込められた声が降ってくる。
その声は、はっきりと耳に届いた。
暁を見上げれば、彼は荒く呼吸をしていて……。
ドンッ!と強く壁を叩くから、体がビクッとする。
強すぎる恨み。
和正のことといい、今日のことといい、私はその恨みを近くで強く感じたけど……またまだ計り知れない。