月夜に笑った悪魔
冷えきった体。
ドクドクと異常なほどはやく動いている心臓は、彼のものだろうか……。
一瞬だけ見えた彼の顔色は悪く、現在は荒い呼吸を繰り返している。
明らかに様子がおかしい状態。
こんなふうになった暁を見たのは、ついさっきと……。
頭を巡らすと、思い出した記憶。
いつか雨が降った日の朝、私は暁と一緒に登校しようとして……急に様子がおかしくなった彼を隣で見た。
あの時、私たちの横を通ったのは……救急車。
救急車が横を通ったあと、暁は荒い呼吸をしていた。
今、聞こえているのは救急車のサイレン。
そこまで思い出して、私はひとつの考えが頭に浮かぶ。
暁は、救急車のサイレンが苦手なのではないか、と。
吉さんは、『暁は……強いけど、弱いやつなのよ』と言っていたっけ。
その言葉の意味はあの時よくわからなかったけど、暁のことを少しずつ知ってなんとなくわかった気がする。
車に乗れなかったり、暗いところで後ろから抱きつかれるのがだめだったり
……暁は、強いのに意外と苦手なものが多い。