月夜に笑った悪魔


「シゴトでこれ持ってるといろいろ便利なんでね。昨日も持っててよかったわ」


そう言って、カチッと音声をとめる暁さん。


……今朝、私が浴衣を着ていた理由は絶対これだ。
私が、自分の制服を汚しちゃったんだ。しかも絶対、暁さんの高級そうな黒服も汚した……。


こんな初対面の人になにしてんだ私。
なにさせてるんだ私。
なにご飯の心配してんだ私。


恥ずか死ぬ。
もう無理だ、人生終わった。


いっそ、殺してくれ……。








「春樹です!朝食をお持ちしました!」


急にすぐうしろ──襖の向こうから大きな声が聞こえてきて、びっくり。


「おう」


暁さんが返事をすると、襖が開いて。
私は邪魔にならないように部屋の隅へと移動。


「あ、美鈴さんですよね!」


おぼんを持って部屋の中へと入ってきたのは茶髪の若い男性。
私にすぐに気づくと、笑顔で声をかけてきた。


……この人も、私のこと知ってる?


持っていたおぼんをテーブルの上に置くと、私の前に正座して。


「はじめまして!犬塚春樹(いぬづか はるき)です!これからよろしくお願いします!」


人懐っこい笑顔で、ぺこりと頭を下げる。

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