月夜に笑った悪魔


幼い笑顔。
もしかしたら私より年下、なのかも。


「よ、よろしくお願いします」


反射的に返して、私もぺこりと頭を下げた。


「美鈴さんは頭下げないでくださいっ!敬語も使わなくて大丈夫ですよ!」
「え、でも……」


「美鈴さんは若頭のお嫁さんなので、気を使わないでなんでも言ってくださいね!」


顔を上げれば、にこにこ笑顔で言う春樹さん。


……な、なんか今、“若頭”って聞こえたような?





頭がフリーズ。

春樹さんはにこにこしながら「朝食置いておきますね!」と、おぼんで運んできたものをテーブルの上に並べて。


「失礼しました!」


と深々と頭を下げて部屋を出ていく。


ついさっき聞いたボイスレコーダーの音声、私はあれを思い出した。


“一条組の本家”
確か、暁さんはそう言っていた。


私はバカなことにそのあとご飯が美味しいかなんて質問していたっけ……。


“一条組”
“若頭”


その単語、背中の刺青を思い出せばもうわかる。








やっぱりこの家は──……ヤクザの家。
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