月夜に笑った悪魔
それがわかった瞬間、私は死を覚悟した。
若頭なんてえらい人にため口で話して、黒服を汚して。
もう生きてはいられない。
ガタッと椅子から立ち上がり、こっちに歩いてくる暁さん。
手をぎゅっと握って、下を向いた。
これは、確実に殺される。
別に私がいなくなっても悲しむ人はもういないし……いいよね。
目の前に影ができて、暁さんはしゃがみこむ。
……なにで殺されるのかな。
拳銃?それとも刃物?
あ、若頭が直接手をくださなくても……ボコボコにされて、他の人に殺されるのかな。
絶対楽に死ねない。
そんなことを考えて、ぎゅっと目をつむれば……おでこに軽い痛みが走る。
まさかの、デコピン。
「なに怯えてんだよ」
耳に届く声。
その声は低い声ではなくて、殺意や怒りは含まれていない……ような気がした。
ゆっくり目を開けて前を見れば、整った顔がすぐ近くにあって。
すぐにうしろへとさがれば、ドンッ!と襖に頭をぶつけた。