月夜に笑った悪魔
「なんとなく気づいただろうけど、ここはヤクザの家。……まぁ、こんな家だって言ってなかったし、どうしても俺の嫁になるのが嫌なら断ってもいいけど。
どうする?」
顎を持ち上げている手が、頬にそっと移動。
大きくて熱い手に触れられて、私は気づいた。
暁さんのお嫁さんにならなかったら、間違いなく今度こそ本当にホームレスになるんだと。
ここを出れば、行くところもお金もなく、餓死する未来しか見えない。
……お嫁さんになったほうがいいんじゃないか。
いやいや、待ってよ私。結婚なんてそんなに軽く決めていいものでもない。
でもやっぱり……餓死するのは嫌だ。
ずっと好きだった人に浮気されて、そのあとひとりぼっちで餓死するなんて、そんな可哀想な人間で終わりたくない。
せっかくこの世に生まれたんだから、幸せになりたいよ。
死ぬ時に、幸せな人生だったなって思えるような人生がいい。
私がヤクザの家にいることで迷惑がかかる人はいないし、暁さんは思ったより優しそうだし、やっばりイケメンだし……。
私を幸せにしてくれるんだよね?
だったらここで生きていくことを決めてもいいのではないか。
私はよく考えて。
それから口を開いた。
「お兄さんのお嫁さんにしてください!」
日南美鈴、17歳。
若頭のお嫁さんになることを決意しました。