月夜に笑った悪魔
「……かっこいい」
車の窓に張り付くようにして外を見て、思わずこぼれ落ちた言葉。
「その言葉、あとで暁くんに伝えよーっと」
隣に座る千梨。
彼女は私の言葉を聞いてしまったみたいで、にやりと笑う。
「えっ」
「暁くん喜ぶよ。ねっ、十くんもそう思うよね」
千梨が話を振ったのは、助手席に座る銀髪の十。
十の腕には、ギプス。
骨折してしまって、バイクには乗れないため一緒に車に乗っている。
話を聞けば十は、暴走族“天華(てんか)”と戦って、油断して攻撃を受けてしまったらしい。
“天華”という暴走族は、月城組若頭である月城岳が率いるチームだと聞いた。
一条組と月城組、ヤクザ同士の争いだけでなく、各若頭が率いる暴走族でも争っている。
……暁が最近ずっとシゴトで忙しかったのはその争いが激化しているからだとか。
後ろを振り向いた十は、なんだかムスッとした顔。
「十くんは残念だったね、ケガが治らなくて」
千梨がそう言うと、十は窓を開けて。
「もっと気合い入れろやぁぁぁぁ!!」
と叫ぶように言った。
1人だけ骨折して、暴走に参加できなくて寂しいんだろう。