月夜に笑った悪魔
ぐいっと手を引っ張られて、行こうとする彼。
……ダメだ。
このまま行かせたらダメ。
絶対、すぐに暴走する。
不安があった私は全力で彼の手を自分のほうへと引っ張って、暁を引きとめる。
彼の体が傾けば、私は背伸びをして。
ぺちぺちと彼の頬を右手で軽く叩いた。
ぽかん、とする暁。
びっくりしたのか、私の目を見て瞬きを数回。
……思わず叩いちゃったけど、痛かった?
軽くやったつもり、だけど……。
「ご、ごめん……ね?」
一応謝ると、彼はふぅと息を吐き出す。
それから、小さく笑った。
「行こ」
そう言った彼は、さっきよりも少し柔らかい表情。
「……うん」
こくんと頷くと、今度こそ森を出て。
足を音を立てないように、男性を追ったのだった。
──……この時の私は、まだあんなことになるなんて思いもしなかった。