月夜に笑った悪魔
知らないこと
「美鈴さん、昨夜はよく眠れました?」
「は、はい!それはもうぐっすり……!」
「また敬語使ってますよ!普通にタメ口で大丈夫ですから!」
「じ、じゃあお言葉に甘えて……これからはタメ口にさせてもらう」
「はい!」
にこりと笑うと、一礼して部屋を出ていく春樹さん。
今、私は……嘘をついた。
本当は、ぜんぜん眠れなかったんだ。
生活に不満があったから眠れなかったわけじゃない。
むしろ、生活に関してはいろいろ面倒を見てもらいすぎて申しわけないくらい。
朝昼夜と3食美味しいご飯を食べさせてもらって、それだけでなくおやつまでもらって。
大きなお風呂に入って、浴衣までまた貸してもらって、この大きな家のひと部屋を私の部屋にしてもらった。
本当に、もらってばかりでなに不自由ない。
眠れなかった原因は……私の心がまだ追いついていなかったから。
新しい人生を歩むと決めたが、そう簡単に和正のことを忘れられるわけがなかった。