月夜に笑った悪魔
車内では、暁がうつ伏せで寝かされた状態で十が布で押さえて止血中。
「み……すず」
弱々しい瞳が私を捉えれば、名前を呼ばれた。
「暁……っ!!」
私は止血の邪魔にならないように暁のそばに行って強く手を握る。
低い体温。
……今にも意識を失いそうな彼。
「おまえ……ケガ、は?」
次に聞こえてくる小さな声。
自分のほうが明らかにひどいケガをしてるのに、こんな時にも私の心配するなんて……。
「私は暁のおかげで大丈夫だからっ!」
どんなに強く手を握っても、強く握り返されることのない手。
……また、大切な人を失うかもしれない。
……そんな辛さはもう絶対に味わいたくないのに。
「ぜ、絶対死ぬなバカっ!もし死んだら婚約解消だからね!?私、もっと年上の……背が高いイケメンと結婚してやるから!」
強く言えば、涙がとまらなくなる。
暁は少し笑うとさっきより少しだけ強く手を握り返して、何とか病院まで意識を保ったのだった。