月夜に笑った悪魔
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「美鈴は1人でも大丈夫だよな?ただの熱だし」
「……うん」
「あ、そうだ。悪いんだけどシャツ洗濯しといてくんない?洗濯しないと明日着るのなくてさ」
「……あとでしておくからいいよ」
「ほんとありがとう。美鈴、愛してるよ」
「……私もだよ」
「じゃあ行ってくるから」
「……行ってらっしゃい」
パタン、と閉まるドア。
「……早く帰ってきてね」
和正に届くことのない声。
直接言うことができなくて、閉められたドアに向かって小さく言った。
本当はそばにいてほしかった。
熱を出した時くらい、近くにいてほしかった。
でも困らせたくなくて……なにも言えず、部屋で1人。
寂しい気持ちも悲しい気持ちも、苦しい気持ちもぜんぶ胸の中にしまった。