月夜に笑った悪魔
「もう逃げらんねぇよ」
襖が閉められると、暁はまっすぐに私の目を見つめる。
目を逸らそうとすれば顎を持ち上げられて、目を逸らせなくさせられた。
……だめだ。
逃げられない……。
「避けんな。目、逸らしてんじゃねぇ」
「……避けられる理由くらい、わかってるんじゃないの」
ゆっくり声を出せば、涙が同時にこぼれ落ちていく。
「…………」
「私は、暁と一緒にいると……苦しいよ。いつかいなくなっちゃうんじゃないかって思うと怖い……」
言ってしまえば次々と涙は溢れて、とまらない。
こんなこと言ってもどうにもならない。
暁はとまることはないし、また心のこもってない謝罪をするだけ。
だから私は、もう……こう言うしかない。
「お願いだから、ちゃんと帰ってきて。私と約束して……」
せめて、約束がほしい。
少しでも安心するために……約束だけでも。
「……“ずっと一緒にいてやるし、幸せにしてやる”って、おまえ拾った日に約束したから。もちろんちゃんと帰ってくる」
暁はそう返してくれると、私を強く抱きしめて。
私は……今日は彼の腕の中で涙を流した。