月夜に笑った悪魔



「美鈴」


名前を呼ばれて暁のほうへと視線を向ければ、近づいてくる顔。


彼の感触と熱がしっかり伝わって、重なる唇。




触れたのは一瞬。
余裕そうな顔してすぐに離れていこうとするから……。


私は彼のネクタイを引っ張り、引き寄せるとまた唇を重ねた。



「暁……好きだよ」


すぐに離れて、至近距離で暁を見つめる。


「……俺も」


返ってくる返事。
それでも嬉しいんだけど……、ちがう。


言葉がちゃんとほしい。
暁の気持ちを言葉でちゃんと聞きたい。



「“俺も”……なに?」


聞き返したのは、わざと。
言ってくれるかどうか、ドキドキしながら待つと。



「美鈴が好きだ」


まっすぐに目を見つめられると顔が近づき、触れ合った唇。


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