月夜に笑った悪魔
「……え?な、なんで、そんなこと?」
私は声を出すが……また、思い出す言葉。
出発する前に言っていた、あの暁の言葉。
『もし、アレなくしても……俺のことだけ考えて、頭ん中俺だけでいっぱいにして、“暁大好き”って言ったらすぐ助けてやるよ』
まさか、この男は……──私に、暁のことだけを考えさせて『暁大好き』って言わせたかったからこんなことを?
最初から、それが目的だった?
え、でも、さすがにそんなことは……。
「おまえのイヤリングと靴にはGPS仕込んでるし、ペンダントには盗聴器入ってるから奪ってもいいか、って」
軽く返され、頬に添えられた手。
聞こえてきた言葉に……確信に変わる。
「まさか愛してるとまで言われるとはな。どう?俺のこと、ほんとに好きになった?」
目にうつるのは、楽しむような表情。
この男、はじめからそうする気だったんだ。
彼のことだけを考えさせて、言わせることが目的だったんだ。
……そんなことをしたからといって、好きになるとは限らないのに。
ショルダーバッグを奪われたことに気づかなかった私も悪いけど……私がどんな目にあったと思ってるんだ。
暁って、私のこと……好き、なんだよね?
わかっていて、自分の好きな女をこんな目にあわせるなんて
……そんな考え方、狂ってる。
「大っ嫌い!!あんたのことなんか世界で1番嫌いだ、バカっ!!」
思いっきり、彼の足を踏んずけた。