月夜に笑った悪魔
触れて、上がる熱
たいてい、私がなにも言い返さなければ場の空気を悪くすることもないし、相手を困らせることもなければケンカをすることもない。
私さえ、我慢すれば……。
「美鈴、本当にごめん!明日急に仕事が入って、一緒に過ごせなくなった……。誕生日なのに本当にごめん!」
本当は悲しかった。
でも仕方のないことだから笑顔を作って、和正に「大丈夫」と返す。
『仕事が終わらなくて出張が急遽1週間も延長になってさ……しばらく帰れないんだ。
ごめん美鈴。でも、1週間も2週間もそんなに変わんないし美鈴なら1人でも大丈夫だよな?』
仕事で出張に行っている和正からの電話。
……本当は寂しかった。でも、そんな言葉は飲み込んだ。
「同僚と急遽飲みに行くことになってさ、今日も夕飯いらなくなった。ほんとごめんな?」
月に何度もある飲み会。
本当はそんなに頻繁に行ってほしくないけど、私は文句を言わずにいい子でいた。
ぜんぶ言わずに我慢していたのは、毎日必ず言われていた「好き」という言葉をある日突然言われなくなることが怖かったから。
めんどくさい女だと思われて嫌われることが怖かった。
……私は、1人になることがなによりも怖かったんだ。