月夜に笑った悪魔
「こんぐらい?」
「……うん」
ちょうどいいはやさにわざわざ合わせてくれる。
私が濡れないようにと傾けられている傘。
ふと目に入ったのは……彼の左腕。
こっちに傾けているせいで、濡れている。
この男、狂ってるのか優しいのか、なんなんだ……。
「濡れてるよ」
私は2人の間の距離をつめて、彼が傘を持っている手を握り、傘をまっすぐに立てた。
大きめの傘だから、そんなに距離をあけなければきっと2人とも濡れないはず。
もう一度彼の左側を見れば、雨があたっていなくてひと安心。
この距離のまま歩けば大丈夫。
……近いのは、仕方ない。
近いのは……。
香ってくる甘い匂い。
ピタリと密着している腕。
ちらりと彼を見れば、見える横顔。
綺麗なフェイスライン、長いまつ毛。
横顔も完璧すぎる。
私はまだ怒ってるはずなのに……つい、ドキドキしてしまう。
って……いつまで私は暁の手を握ってるのか。
見とれてる場合じゃない!