僕と名の知らない君は、嘘つきから始まった
「待って!」



後ろを向いていないのに、彼女は僕の腕をピンポイントで掴んで声を張り上げた。



「…?」



「亜嵐の話が嘘だなんて思えない。……だから、…私、石になってもいい、固まってもいいから!…だからお願い、亜嵐を見たい。そっちに振り向きたい」



何があっても離さないと言わんばかりに僕の腕に力を込め、彼女は言葉を続けた。



「目が見えるようになったら、絶対に亜嵐の姿を見ようと思ってたのに…。こんな、こんな事ってある、?……私、は、固まってもいいから、…だから、そっち、…向いていい?」



僕の言葉を全て信じたのか信じていないのかは分からないけれど、彼女が泣いていることだけは事実で。



上から手で押さえても制御が効かなくなった僕の髪の毛は、もう暴れたい放題で蠢き続けていて。



今彼女がこちらを向いたら、絶対に固まるのは目に見えているけれど。




「……良いよ、」



そんなに言うのなら。



僕の醜い姿を、怪物を、見て良いよ。





「ありがと、…」



僕の言葉に反応して、彼女はゆっくりと後ろを振り返った。



そして、サングラスと帽子を持ってその場に立ち尽くす、灰色の髪の僕と、目が…。



(やばい)



彼女の目には今までとは違って光が灯っていて、その瞳の中には怯えた顔つきをしている自分の姿が映っていて。
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