僕と名の知らない君は、嘘つきから始まった
まるで、凍ってしまった人の様に、色のついた彫刻の様に。



僕と目を合わせた人は、ほとんどの確率で固まる。




その人の固まっている間の時間は、僕が奪ってしまう。



これは世界的に見ても珍しい症例だし、そもそもメドゥーサなんて伝説上の生き物だから、治療法なんて確立されていない。



けれど、僕の祖父が密かに研究を続けてきた結果、人間が服用するある薬とある薬を混ぜ合わせたものを飲むと、自分自身で人の石化をコントロール出来るという事が分かった。



僕らは、とにかく自らの意思に関係なく見たものを固めてしまうから、それまでの外出は困難を極めていた。



友達なんて親戚以外に出来た試しが無いし、学校だって行けるわけがない。



こんな生活が、もう16年ーつまり人間でいうと高校1年生ーも続いている。



そんな僕達にとって、その薬を飲んで少しでも自分の力をコントロール出来るのは革命に近い出来事だった。



だから僕は1ヶ月に2,3回、この病院に薬だけを貰いに来ているのだ。




極端に人と接することを避けていた僕だけれど、彼女ー姫野 莉衣(ひめの りい)ーは、紛れもない人間だ。



僕と彼女の出会いは話せば長くなるけれど、簡単に言うと、今から約約1か月前、此処に通院している僕が目の見えない病気になってしまった同い年の莉衣に病院で道案内をした事が始まりだ。
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