僕と名の知らない君は、嘘つきから始まった
「あ、亜嵐?」



彼女のベッドは、2人用の部屋の奥のベッド。



窓際で、それなりに景色が見える。



手前のベッドには僕と同い年位の男子が入院しているけれど、今は居ないらしい。



ねえ聞いて、随分はっきり景色が見えるようになったの!、と明るく言いながら、彼女はこちらを振り向きかけて。


「駄目、こっちを見ないで」



僕の低い声に驚いたのか、



「あ、うん…」



彼女は、最初と同じく窓の方に顔を向けた。




「…亜嵐、どうしたの?怒ってる?」



少しの間の後、口を開いたのは彼女の方だった。



(怒ってるわけ…)



「怒ってないよ。…むしろ、莉衣の目が見えるようになって本当に良かったって思ってる」



僕は、サングラスのせいで暗くなった視界の中、莉衣の後ろ姿に向かって話し掛ける。



「じゃあ後ろ向いていい?私、早く亜嵐の姿を見たいんだけ」



「あのさ」



僕は、半ば彼女の言葉を遮る様に口を開いた。



早く言わないと、僕の髪の毛が蠢きそうだからだ。



確かに、僕の飲んでいる薬は自分の力をコントロール出来るけれど、髪の毛が動いている時はコントロール出来ない。



自分の髪の毛が動いている時に誰かを見ると、僕は必ずその人を固めてしまう。



こればかりは、薬だろうと何だろうとどうにも出来ない。
< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop