僕と名の知らない君は、嘘つきから始まった
「僕の祖先は人を石にする事が出来たんだ。でも僕の代は人間の血も入ってて…、人を完全に石化する事は出来ないけど、目を合わせた人を固まらせちゃうんだ」



だから、と、僕は呼吸を置いて話を続けた。



「莉衣が、目が見えなかった時…。不謹慎だけど、凄く嬉しかった」



彼女は何も言わない。



「莉衣には僕の姿が見えない。僕の目を見る事も無いから、僕が莉衣を固める危険もない。…ずっと家に居たから、そうやって人と接するのが初めてで、嬉しかったんだ」



段々、ニット帽の下で髪の毛が動き始めるのを感じる。



「だけど、もう無理だ。…莉衣は目が見えるようになった。それは凄く嬉しい事だけど、もう僕らは同じ空間に居ちゃいけない」



僕は怪物で君は人間なんだから、と付け加えると、莉衣は首を振りながら僕の腕を掴む手にまた力を込めた。



「だから莉衣、……僕の事なんて忘れて、生きて」



そろそろ、本当に髪の毛がやばい事になってきている。



蠢き始めた僕の灰色は止まる事を知らず、動くスピードを早めていき、ついには被っていたニット帽が床に落ちた。



それと同時に、掛けていたサングラスも同じく床に落ちてしまって。



「っ…楽しかったよ、ありがとう」



それだけ言って、僕が立ち上がってサングラスと帽子を拾い、今度こそ病室を出ようとすると。
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