海の底
物心つく前から三人だった。
僕と、紗枝と佳枝。
紗枝と佳枝は一卵性の双子で、よく似ていた。
でも、僕は絶対に区別がつけられた。
言葉では上手く言えないけど、なんとなく見分けがついた。
だからか、二人はよく僕に懐いていた。

そして僕は、紗枝と恋に落ちた。


「あら、ようちゃん、お久しぶりね。もう何年になるかしら。もう、五年になるのね。
時の流れは早いわね。そうよね、もうあれから六年になるのね」
紗枝の母親が元気そうでよかったと思う。
最後に会った時はまだ疲れ切った顔をしていた。

無理もない、大事な娘を亡くしたのだから。

僕はゆっくりと見慣れた襖を開ける。ここは佳枝の部屋だった。
目を瞑るが、すぐに目を開ける。


何故、あんなところに行ったんだ。
佳枝の骨は深い深い海の底で見つかった。
おそらく崖から落ちたということだったが、崖に行った理由は分からずじまいだった。
あの場所は立ち入り禁止の場所だったのに、何故。

「ようちゃん、ご飯の時間だって」
彼女の声がした。気付くと日が暮れていた。

逆光でよく見えなかったが、声の明るさとは裏腹に泣きそうな顔をしていた気がした。
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