青の秘密を忘れない
ベタなデートがしたいと私がリクエストして、水族館に行ってオシャレなカフェでお茶をして公園でアヒルボートに乗った。
意外と青井君のこと知らなかったな、と思った一日だった。
クラゲよりカメの方が好きだとか、甘いものが大好物だとか、乗り物酔いしやすいだとか、本当に些細なことさえ新事実の連続だった。
「たくさん青井君のことが知れてよかったな」
「僕もですよ。篠宮さんって思った以上にかわいい人でした」
「え、どこが?」
「クラゲに夢中になって時間忘れちゃうところとか、つぶあんよりこしあん派なところとか、僕と同じで猫が好きなところとか」
「そこ?でも私も、青井君のこと知れば知る程……」
好きになる、と言いかけて恥ずかしくなって笑ってごまかした。
「篠宮さんのこと、もっと好きになっちゃうな」
青井君はなんてことないように恥ずかしいことをさらっと言う。
職場でも人懐こかったけれど、また違った甘い顔。
優しい口調に、脳みそがとろけてしまう気がして怖い。
「またデートしたいね」
「そうですね」
気付くと、もう午後九時になろうとしていた。
友達と遊ぶとは言って出てきたが、あまり遅くなるとどんな顔して戻ればいいか分からなくなる。
「そろそろ帰ろうか」
「あ、もうこんな時間ですね。名残惜しいけど帰りますか」
次に会えるのは、いつだろう。
今まで平日は毎日会えていたのに、これからはなかなか会えなくなる。
人がまばらな駅のホームで、私と青井君はなるべく目立たないところに立つ。
「帰って来る時は教えてくださいね」
「うん」
「僕もそっちに遊びに行きますね」
「うん」
「毎日連絡します」
「うん」
「出来る時は電話もしましょう」
「うん」
「名残惜しいな」
「大好きだよ」
「えっ」
きっと青井君も不安だって、分かるから少しでも安心させたかった。
「篠宮さん。正直言って、今まだ社会人二年目で篠宮さんを養う経済力をつけるのにもう少し時間がほしいです。それまで待っていてくれますか」
「うん、分かった。私も引っ越し先で働いてお金貯める」
そして、私たちは次会う約束もできないまま、将来の約束をした。
電車が到着するアナウンスが流れると、青井君が何度も周りを見渡し始めた。
私もつられて後ろを振り返り、前に向き直ると丁度電車がやってくるのが見えて。
すぐに目の前が真っ暗になって、一瞬唇にあたたかいものが触れた。
そして、青井君に背中をポンとたたかれて電車に乗り込む。
おそるおそる前を向くと、青井君が飄々とした表情で手を振っている。
でも、その顔は真っ赤になっていて、にやけるのを堪えているように見えた。
私も、にやけるのを堪えて手をぶんぶん振ったところでドアが閉まった。
また彼は姿が見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
ベタ過ぎる……。
そんなことをしても変にクサくならないのは、まだ彼が若いから?
デートの高揚感で、夫への罪悪感が既に薄れて始めている。
だって、好きになってしまったのだもの。
結婚さえしてなかったら……、今考えるのは良くない気がする。
どんどん人間でなくなっていく感覚に襲われたが、それでもいいと思った。
夫の顔を直視する自信がなくて、疲れたから寝るねと言って私はすぐに布団にもぐりこんだ。
意外と青井君のこと知らなかったな、と思った一日だった。
クラゲよりカメの方が好きだとか、甘いものが大好物だとか、乗り物酔いしやすいだとか、本当に些細なことさえ新事実の連続だった。
「たくさん青井君のことが知れてよかったな」
「僕もですよ。篠宮さんって思った以上にかわいい人でした」
「え、どこが?」
「クラゲに夢中になって時間忘れちゃうところとか、つぶあんよりこしあん派なところとか、僕と同じで猫が好きなところとか」
「そこ?でも私も、青井君のこと知れば知る程……」
好きになる、と言いかけて恥ずかしくなって笑ってごまかした。
「篠宮さんのこと、もっと好きになっちゃうな」
青井君はなんてことないように恥ずかしいことをさらっと言う。
職場でも人懐こかったけれど、また違った甘い顔。
優しい口調に、脳みそがとろけてしまう気がして怖い。
「またデートしたいね」
「そうですね」
気付くと、もう午後九時になろうとしていた。
友達と遊ぶとは言って出てきたが、あまり遅くなるとどんな顔して戻ればいいか分からなくなる。
「そろそろ帰ろうか」
「あ、もうこんな時間ですね。名残惜しいけど帰りますか」
次に会えるのは、いつだろう。
今まで平日は毎日会えていたのに、これからはなかなか会えなくなる。
人がまばらな駅のホームで、私と青井君はなるべく目立たないところに立つ。
「帰って来る時は教えてくださいね」
「うん」
「僕もそっちに遊びに行きますね」
「うん」
「毎日連絡します」
「うん」
「出来る時は電話もしましょう」
「うん」
「名残惜しいな」
「大好きだよ」
「えっ」
きっと青井君も不安だって、分かるから少しでも安心させたかった。
「篠宮さん。正直言って、今まだ社会人二年目で篠宮さんを養う経済力をつけるのにもう少し時間がほしいです。それまで待っていてくれますか」
「うん、分かった。私も引っ越し先で働いてお金貯める」
そして、私たちは次会う約束もできないまま、将来の約束をした。
電車が到着するアナウンスが流れると、青井君が何度も周りを見渡し始めた。
私もつられて後ろを振り返り、前に向き直ると丁度電車がやってくるのが見えて。
すぐに目の前が真っ暗になって、一瞬唇にあたたかいものが触れた。
そして、青井君に背中をポンとたたかれて電車に乗り込む。
おそるおそる前を向くと、青井君が飄々とした表情で手を振っている。
でも、その顔は真っ赤になっていて、にやけるのを堪えているように見えた。
私も、にやけるのを堪えて手をぶんぶん振ったところでドアが閉まった。
また彼は姿が見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
ベタ過ぎる……。
そんなことをしても変にクサくならないのは、まだ彼が若いから?
デートの高揚感で、夫への罪悪感が既に薄れて始めている。
だって、好きになってしまったのだもの。
結婚さえしてなかったら……、今考えるのは良くない気がする。
どんどん人間でなくなっていく感覚に襲われたが、それでもいいと思った。
夫の顔を直視する自信がなくて、疲れたから寝るねと言って私はすぐに布団にもぐりこんだ。