青の秘密を忘れない
三十分くらいで駅に戻って来たが、彼は改札前まで言葉を発しなかった。

私の携帯電話が震え、『そろそろ着く?』と親からのメッセージが目に入る。
「ごめん、そろそろ行かなきゃ」

「僕、今日で篠宮さんのこともっと好きになりました」
その言葉と反して、青井君の表情は曇っていた。

「どうしたの?」

「それ以上に親御さんは篠宮さんを愛して育ててきて、旦那さんに託したんだろうなと思って」

青井君は、自分を責めているような言い方をする。
思わず抱きしめたくなる気持ちを抑えて、青いお守りを青井君に差し出す。

「青井君は悪くない。私が選んだの。青井君といることを選んだの。
だから、青井君がそんな風に落ち込む必要はないよ」

そう言ったけれど、青井君は納得していない表情のまま、
差しだしたお守りを受取り、自分のお守りを私の手に握らせた。

そして、「ありがとうございます」と小さく笑って改札の中へ消えていった。


確かに、今までの人生の積み重ねを壊してしまうかも知れない。
家族への罪悪感は、もちろんある。

でもね。
それでも、私は青井君といたいと思ったよ。

「おかえりなさい。あら、その帽子の色きれいね。どこで買ったの?」
「今日ゆりえと買い物した時に買ったんだ。いいでしょ」

その証拠に、私はちゃんと親の目を見て嘘をつくことができる親不孝者だ。

きっとどこに向かうとしても、死んだら地獄行きかも知れない。
そんなことを考えながら、さっき青井君と見た実家に何食わぬ顔で入った。
< 36 / 60 >

この作品をシェア

pagetop