青の秘密を忘れない
そんなことがあったから、余計に彼を意識してしまう。
次の日、そんなことなんてなかったかのように青井君はいつも通りの様子だった。
窓の外に目を向けると、既に景色が見えないくらい真っ暗になっていた。
気が付くと、オフィスには私と青井君しか残っていない。
「青井君、もう帰れる?」
「帰れますよ」
彼は既に帰り支度を終えていたようで、私の方へ向かってくる。
青井君は私のデスクに寄りかかり、手持無沙汰なせいか、私の筆立てを勝手に漁り始めた。
私はそれを横目で見ながら、机に散らばっていた書類をキャビネに放り込んでいく。
「このペンいいですね、欲しいな」
そのペンは確か、自分が新入社員の頃、自分への入社祝いで買ったものだ。
「えー、そんな使い古しより新しいペンを買った方がいいよ」
「これがいいんですよ」
特に他意はないことは分かっている。
鮮やかな青い万年筆のようなフォルムをしている格好いいボールペン。
きっと彼の目に留まっただけ。
「いいよ、あげるよ」
なるべく平静を装って、私は彼に視線を向けるとぱっと笑顔になった。
「ありがとうございます。大切にしますね」
私はにやけている気がして、携帯電話の画面に目を落とした。
〈お疲れ様、迎えに行くよ〉の文字が目に入る。
送信時間は三十分以上前だから、既にここに着いているだろう。
胸の奥がずしんと重くなる。
「お迎えですか」
私は、胸のざわめきを消し去るように努めて明るく頷いた。
「旦那さん、優しいですね」
誰とは言っていないのに、青井君は少し冷やかすように笑った。
なぜか胸が締め付けられて、苦しかった。
私たちは一階まで一緒に降りた。
先にドアを開けた青井君は振り返ることなく、駅の方向に消えていった。
私が一階の通用口を抜けると、一台のシルバーの車が停まっていた。
その車に近付くと、助手席のドアが開いた。
「お疲れ様」
「そっちこそお疲れ様。ありがとう」
三年前、私は結婚した。
青井君と出会う二年前のことだった。
次の日、そんなことなんてなかったかのように青井君はいつも通りの様子だった。
窓の外に目を向けると、既に景色が見えないくらい真っ暗になっていた。
気が付くと、オフィスには私と青井君しか残っていない。
「青井君、もう帰れる?」
「帰れますよ」
彼は既に帰り支度を終えていたようで、私の方へ向かってくる。
青井君は私のデスクに寄りかかり、手持無沙汰なせいか、私の筆立てを勝手に漁り始めた。
私はそれを横目で見ながら、机に散らばっていた書類をキャビネに放り込んでいく。
「このペンいいですね、欲しいな」
そのペンは確か、自分が新入社員の頃、自分への入社祝いで買ったものだ。
「えー、そんな使い古しより新しいペンを買った方がいいよ」
「これがいいんですよ」
特に他意はないことは分かっている。
鮮やかな青い万年筆のようなフォルムをしている格好いいボールペン。
きっと彼の目に留まっただけ。
「いいよ、あげるよ」
なるべく平静を装って、私は彼に視線を向けるとぱっと笑顔になった。
「ありがとうございます。大切にしますね」
私はにやけている気がして、携帯電話の画面に目を落とした。
〈お疲れ様、迎えに行くよ〉の文字が目に入る。
送信時間は三十分以上前だから、既にここに着いているだろう。
胸の奥がずしんと重くなる。
「お迎えですか」
私は、胸のざわめきを消し去るように努めて明るく頷いた。
「旦那さん、優しいですね」
誰とは言っていないのに、青井君は少し冷やかすように笑った。
なぜか胸が締め付けられて、苦しかった。
私たちは一階まで一緒に降りた。
先にドアを開けた青井君は振り返ることなく、駅の方向に消えていった。
私が一階の通用口を抜けると、一台のシルバーの車が停まっていた。
その車に近付くと、助手席のドアが開いた。
「お疲れ様」
「そっちこそお疲れ様。ありがとう」
三年前、私は結婚した。
青井君と出会う二年前のことだった。