青の秘密を忘れない
そんな話をしているうちに、辺りは真っ暗になっていた。
街灯が私たちを照らしている。
「僕がまだまだ子供なだけなんですよね、きっと」
青井君がさっきとは打って変わって明るい口調で話しかけてくる。
以前ラブラブだった頃よりもくだけている感じがある。それはそれでいいかも知れない。
「うーん、まあそれもある」
「はっきり言うなぁ。
じゃあ、篠宮さんは二十四歳の時どうだったんですか?彼氏いました?」
私はドキリとして、青井君の目を見つめた。
青井君も少し緊張した面持ちになる。
「いたよ、二つ年上の先輩。大好きだったけど、
三年付き合って別れた」
「年上とは意外。なんで別れちゃったんですか?」
「んー、多分、私が子供だったからかな。
彼がすごく忙しい人で、好きかどうか分からないって言っちゃって。仲直りしようとした彼に意地張っちゃったから」
「なんとなく今の僕の状況と似てますね」
私はその言葉に曖昧に笑った。
あの時に後悔した恋と同じようにはしたくない。
正臣に救いの手を差し伸べられても、しばらく忘れられなかった。
だからこそ、青井君が私のことを好きじゃなくなるまで手を離せないのだろうなと思った。
「その人に、未練はありますか?」
青井君が少しすねた顔をして聞いてくる。
正臣の前に付き合っていた彼氏についてそう聞かれたことに驚く。
「まだ、その人を好きなんですか?」
青井君が、ついさっき「どう思ってるか分からない」と言った人の顔とは思えなくて、つい頬が緩む。
でも、バレたら表情が固くなりそうだったから神妙な顔をする。
「いや、そんなことはないよ。しばらくは引きずってたけど。ただ、自分の気持ちに嘘をついちゃったことは後悔してるかな」
青井君はそうですよね、と言って考え込んでいるようだった。
お腹空いたね、とどちらともなく言い出して焼肉屋に入る。
青井君が勝手に注文していい?と聞いてくるので任せて、私はさっきのやりとりを考えてぼーっとしていた。
「それ、頼みます?」と青井君の声が聞こえて、目の前の文字にピントを合わせる。
私が答える前に、店員が「サンチュおすすめですよ」とのんきに笑いかけてきて、彼はメニューを閉じながら「じゃあサンチュも一つ」と言った。
「サンチュ頼む派なんですね」
「いや、たまたま見てただけなんだけどね」
そう内緒話を打ち明けるように言うと、彼は「えー」と言って無邪気に笑った。
届いたサンチュに焼いた肉を巻いて食べた。
「おいしい」とハモって、私たちは顔を見合わせて笑った。
こんな時間が続けばいいのに。
これから焼肉を食べる度、サンチュで肉を包むと美味しいってきっと今後も思い続けるし、さも自分で気付きましたという顔で友人に進めるだろう。
彼と一緒に食べたことすら忘れても、たとえサンチュがマイナーになったとしても、サンチュで焼肉を巻いて食べるのは美味しいのだと主張するのだと、ふと思った。
「はい、じゃあこれ」と言って青井君がお守りを差し出すので、さっと交換をする。
そして、青井君は私の頭を雑にポンと撫でて、こっちのホームに来かけて何か思い出したように、別のホームに向かった。
ふと考えてしまう。
「普通の恋」ができればよかった。
愛になんてなりきれない、ただそこら辺に転がっていそうな二人になりたかった。
以前、彼が言っていたような日々を想像する。
職場でこそこそと会う約束をして、会社から程近いアパートの私の部屋に彼を招き、一緒に料理を作って食べながら、ためにならない番組を観て、当たり前のように愛し合って眠りたい。
疲れたらそのまま寝てしまったっていい。
今日が流れてしまっても、私たちには明日がある。
そんな毎日を送ってみたかった。
イヤホンをつけるとさっきの洋楽の続きが流れた。
街灯が私たちを照らしている。
「僕がまだまだ子供なだけなんですよね、きっと」
青井君がさっきとは打って変わって明るい口調で話しかけてくる。
以前ラブラブだった頃よりもくだけている感じがある。それはそれでいいかも知れない。
「うーん、まあそれもある」
「はっきり言うなぁ。
じゃあ、篠宮さんは二十四歳の時どうだったんですか?彼氏いました?」
私はドキリとして、青井君の目を見つめた。
青井君も少し緊張した面持ちになる。
「いたよ、二つ年上の先輩。大好きだったけど、
三年付き合って別れた」
「年上とは意外。なんで別れちゃったんですか?」
「んー、多分、私が子供だったからかな。
彼がすごく忙しい人で、好きかどうか分からないって言っちゃって。仲直りしようとした彼に意地張っちゃったから」
「なんとなく今の僕の状況と似てますね」
私はその言葉に曖昧に笑った。
あの時に後悔した恋と同じようにはしたくない。
正臣に救いの手を差し伸べられても、しばらく忘れられなかった。
だからこそ、青井君が私のことを好きじゃなくなるまで手を離せないのだろうなと思った。
「その人に、未練はありますか?」
青井君が少しすねた顔をして聞いてくる。
正臣の前に付き合っていた彼氏についてそう聞かれたことに驚く。
「まだ、その人を好きなんですか?」
青井君が、ついさっき「どう思ってるか分からない」と言った人の顔とは思えなくて、つい頬が緩む。
でも、バレたら表情が固くなりそうだったから神妙な顔をする。
「いや、そんなことはないよ。しばらくは引きずってたけど。ただ、自分の気持ちに嘘をついちゃったことは後悔してるかな」
青井君はそうですよね、と言って考え込んでいるようだった。
お腹空いたね、とどちらともなく言い出して焼肉屋に入る。
青井君が勝手に注文していい?と聞いてくるので任せて、私はさっきのやりとりを考えてぼーっとしていた。
「それ、頼みます?」と青井君の声が聞こえて、目の前の文字にピントを合わせる。
私が答える前に、店員が「サンチュおすすめですよ」とのんきに笑いかけてきて、彼はメニューを閉じながら「じゃあサンチュも一つ」と言った。
「サンチュ頼む派なんですね」
「いや、たまたま見てただけなんだけどね」
そう内緒話を打ち明けるように言うと、彼は「えー」と言って無邪気に笑った。
届いたサンチュに焼いた肉を巻いて食べた。
「おいしい」とハモって、私たちは顔を見合わせて笑った。
こんな時間が続けばいいのに。
これから焼肉を食べる度、サンチュで肉を包むと美味しいってきっと今後も思い続けるし、さも自分で気付きましたという顔で友人に進めるだろう。
彼と一緒に食べたことすら忘れても、たとえサンチュがマイナーになったとしても、サンチュで焼肉を巻いて食べるのは美味しいのだと主張するのだと、ふと思った。
「はい、じゃあこれ」と言って青井君がお守りを差し出すので、さっと交換をする。
そして、青井君は私の頭を雑にポンと撫でて、こっちのホームに来かけて何か思い出したように、別のホームに向かった。
ふと考えてしまう。
「普通の恋」ができればよかった。
愛になんてなりきれない、ただそこら辺に転がっていそうな二人になりたかった。
以前、彼が言っていたような日々を想像する。
職場でこそこそと会う約束をして、会社から程近いアパートの私の部屋に彼を招き、一緒に料理を作って食べながら、ためにならない番組を観て、当たり前のように愛し合って眠りたい。
疲れたらそのまま寝てしまったっていい。
今日が流れてしまっても、私たちには明日がある。
そんな毎日を送ってみたかった。
イヤホンをつけるとさっきの洋楽の続きが流れた。