青の秘密を忘れない
「青井君は帰らなくていいの……?」

「篠宮さん一人でここ入れないでしょ」

私を一瞥することなく、どんどん中に入って行く。
掴む手が心なしか強い気がしてきて、不安になる。

異国情緒漂ううさんくさい部屋にたどり着く
と、「濡れてるから早くお風呂入って」と少し強めに背中を押された。
私は言われるがままにシャワーを浴びる。


そんなに嫌なら、放っておいてくれていいのに。


今まで青井君の素っ気ない態度も、今は仕方ない嫌われてないと我慢してきた。
でも、付き合う前の青井君も付き合った直後の青井君もここにいないなら、私はどうすればいいのだろう。

私は何を糧に青井君を待てばいいの?
流れる涙を止められなくて、私はシャワーを浴び続けた。

やっと落ち着いて浴室を出ると、青井君がすっと浴室に入っていって二十分くらいで出てくる。

そして、私の頬に手の甲で軽く触れる。

「あったかい。体調大丈夫です?」
「う、うん、大丈夫」

「よかった。なんか顔色悪く見えたから風邪引いたかと思って」
そう言って、青井君はベッドに倒れ込んだ。

だから、あんな急いでたの?

よかった、どんな態度でも青井君は青井君なのだ。
私はそっと反対を見て涙を拭った。

青井君が愛しい気持ちが溢れてきて、寝転がる彼を後ろから抱き締めた。
青井君の体が固くなるのが分かる。

「青井君、好き」

青井君は何も言わない。静かな部屋に青井君のうーとかあーとか唸っている声が微かに聞こえるだけだ。

「青井君、」

優しくない、と言う言葉がため息になって消える。

「言われたいだろうなって分かってるけど……!」

分かってるけど、ともう一度弱く付け加えて青井君はこちらに体を向ける。
それと同時に、私の体の向きも反対に向けられ、青井君の表情は見えない。

「好きって言うのが怖い。
言われるのも、正直負担になってる」

その声が私の頭に息となって降りかかる。

これ以上言葉を続けるのはやめようと思いながら、私の口は動いてしまう。
もはや彼ではなくて、自分を傷付けているようだった。

「でも、たまには好きって言ってほしい……」

彼の口から息が漏れて、表情は見えなくても苦笑いしてるのが分かる。
私は怖くなって彼の腕を自分に巻き付けた。
それが世の中でいう悪手であることは知っていた。

彼の腕に急に力がこもるのが分かる。
私の首にちょうどかかっていて締め付ける。
「苦しいよ」
やっと緩んだ腕の中で体の向きを変える。

彼の方を向いて頬にキスをすると、そのまま彼の大きな手が私の後頭部を押さえつけた。
今度は彼の頬で鼻も口もふさがって、息をしようとしても息ができない。
私は、青井君を懸命に押し返した。

「息しようとするじゃん」

「当たり前でしょ、息できなくて死ぬかと思ったよ」

彼はまた少し笑って完全に私から手を離した。熱を帯びた太ももだけが私に触れていた。

「ねぎ」
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