青の秘密を忘れない
「ど、どうしたの?」
自分の声が上ずるのが分かる。
「出張行く準備してたら、よそゆきの靴がもう寿命みたいで買いに来たんだ。
そしたら、青子が座っててびっくりした!」
そう言って正臣は靴の入った紙袋を掲げた。
とりあえず反応としては、青井君を見た訳ではなさそうだ。
それに、正臣は目的の物があればその店にしか行かないことはよく知っている。
「ゆりえさんは?」
「今、トイレ」
「そうなの?じゃあ挨拶しようかな」
「お腹痛いって言ってたし、トイレ待たせてるの嫌でしょ」
「まぁ、確かに」
なるべく不自然じゃなく、正臣を帰そうとしていると青井君がトイレから出てくるのが視界の端に見えた。
こっち来ないで、と願いながら正臣に笑いかける。
青井君は携帯電話を見ながら、私たちがいるソファーのすぐ近くを通りすぎていった。
少しして携帯電話が震える。
きっと青井君からだ。
「とにかく、トイレ待ちはレディに失礼だし、今度はうちに来たいって言ってたから会えるよ」
「そうなんだ、ぜひぜひ。じゃあ、俺は帰ろうかな。じゃあまた」
そう言って手を振る正臣に笑顔を投げかけて、見えなくなった瞬間に携帯電話を確認する。
『百貨店から少し離れたカフェにいます』
私は正臣とまた会ってしまわないように反対側の道に抜けて、青井君のところまで走った。
「青井君、ごめんね!」
大手チェーンカフェのごみごみとした店内に、ぎこちない表情を浮かべた青井君を見つけて駆け寄る。
「いや、大丈夫ですよ。旦那さんですよね?」
「うん。靴買いに来てたみたい。でも、青井君のことは気付いてなかったよ」
青井君はぎこちない表情のまま、コーヒーをすすった。
「さすがに見たら誰?って聞いてくるだろうし、大丈夫だよ」
と、私は安心させるために言葉を重ねた。
「あ、いや、そうじゃなくて。
……篠宮さんって、本当に既婚者なんだなぁって」
逆の立場だったらと考えて、青井君を抱き締めたくなる気持ちを堪えた。
青井君が、ふっと優しく笑った。
私はなぜか不安になってコーヒーを口にする。
「やっと整理できました」
真意が分からず、不安が込み上げてくる。
青井君はコーヒーをかき混ぜながらずっと何かを考えていたが、一人頷いて顔をあげた。
「やっぱり一番僕を分かってくれているのは篠宮さんです。
今日までいろんな篠宮さんを見たけど、いつだって僕のことを見てくれてたなって」
「僕、篠宮さんが好きです」
「好き」という言葉に胸が弾むはずなのに、なぜこんなに不安が募るのだろう。
私も、と言いかけると青井君は目を伏せた。
「だから、終わりにしましょう」
「えっ」
青井君はそう言って、悲しそうな顔で口角を上げたが、目は笑っていなかった。
私はコーヒーが冷めていくことも気にもとめずに、呆然としていた。
自分の声が上ずるのが分かる。
「出張行く準備してたら、よそゆきの靴がもう寿命みたいで買いに来たんだ。
そしたら、青子が座っててびっくりした!」
そう言って正臣は靴の入った紙袋を掲げた。
とりあえず反応としては、青井君を見た訳ではなさそうだ。
それに、正臣は目的の物があればその店にしか行かないことはよく知っている。
「ゆりえさんは?」
「今、トイレ」
「そうなの?じゃあ挨拶しようかな」
「お腹痛いって言ってたし、トイレ待たせてるの嫌でしょ」
「まぁ、確かに」
なるべく不自然じゃなく、正臣を帰そうとしていると青井君がトイレから出てくるのが視界の端に見えた。
こっち来ないで、と願いながら正臣に笑いかける。
青井君は携帯電話を見ながら、私たちがいるソファーのすぐ近くを通りすぎていった。
少しして携帯電話が震える。
きっと青井君からだ。
「とにかく、トイレ待ちはレディに失礼だし、今度はうちに来たいって言ってたから会えるよ」
「そうなんだ、ぜひぜひ。じゃあ、俺は帰ろうかな。じゃあまた」
そう言って手を振る正臣に笑顔を投げかけて、見えなくなった瞬間に携帯電話を確認する。
『百貨店から少し離れたカフェにいます』
私は正臣とまた会ってしまわないように反対側の道に抜けて、青井君のところまで走った。
「青井君、ごめんね!」
大手チェーンカフェのごみごみとした店内に、ぎこちない表情を浮かべた青井君を見つけて駆け寄る。
「いや、大丈夫ですよ。旦那さんですよね?」
「うん。靴買いに来てたみたい。でも、青井君のことは気付いてなかったよ」
青井君はぎこちない表情のまま、コーヒーをすすった。
「さすがに見たら誰?って聞いてくるだろうし、大丈夫だよ」
と、私は安心させるために言葉を重ねた。
「あ、いや、そうじゃなくて。
……篠宮さんって、本当に既婚者なんだなぁって」
逆の立場だったらと考えて、青井君を抱き締めたくなる気持ちを堪えた。
青井君が、ふっと優しく笑った。
私はなぜか不安になってコーヒーを口にする。
「やっと整理できました」
真意が分からず、不安が込み上げてくる。
青井君はコーヒーをかき混ぜながらずっと何かを考えていたが、一人頷いて顔をあげた。
「やっぱり一番僕を分かってくれているのは篠宮さんです。
今日までいろんな篠宮さんを見たけど、いつだって僕のことを見てくれてたなって」
「僕、篠宮さんが好きです」
「好き」という言葉に胸が弾むはずなのに、なぜこんなに不安が募るのだろう。
私も、と言いかけると青井君は目を伏せた。
「だから、終わりにしましょう」
「えっ」
青井君はそう言って、悲しそうな顔で口角を上げたが、目は笑っていなかった。
私はコーヒーが冷めていくことも気にもとめずに、呆然としていた。