青の秘密を忘れない
第18章 青の秘密を忘れない
「お久しぶりです!」
その声で振り向くと、宮川さんが立っていた。
「久しぶり」
「まさか戻ってきてくださるとは!うちの部署も安泰ですね」
「いやいや、多分違う部署に配属になるよ。
でも、よろしくね」
あれから二年半ほど経ち、私は元いた土地に戻ってきた。
自分一人の力で生きていくにはお金を稼がなくてはいけないと思っていた時に、前職の上司から声をかけてもらって復帰をした。
ただ、すぐに返事ができなかった。
青井君に会うのが怖かった。
それは、正臣への罪悪感だけではない。
もう私のことなんて忘れている。
もう新しい恋をしている。
そんな青井君を見るのが怖かった。
だから、宮川さんに彼がもういないことを確認してから承諾した。
「そういえば、今もう篠宮さんじゃないんですよね?」
「うん」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
彼……青井君と別れてから、正臣と旅行に行って、青井君との結果はどうであろうと別れようと思っていた。
「私ね、」
「実は正臣を裏切っていたの」と言いかけた私に「距離を置こうか」と正臣は言った。
地元と離れた土地で二人きりでいるとストレスが溜まるし、一旦離れた方がいいんじゃないかとのことだった。
「ごめんね」
そう言うと、正臣は私を見て真剣な表情で頭を下げた。
「幸せにできなくて、ごめん」
涙が溢れかけて、絶対に泣いてはいけないと堪えた。
私には泣く資格なんか微塵もない。
私はこの人を不幸にしたくないとは思っても、幸せにしたいと思ったことはなかった。
正臣は柔らかくも有無を言わせぬ態度で周囲を説き伏せて、すんなりと別居に至った。
誰にも私を責めさせなかった。
どこまでも優しくて愛してくれていた。
その優しさで償う機会を失ったことが、最大の罰なんじゃないかと思う。
私はそれでも地元にも元いた土地にも戻らなかった。
今、戻ってはいけないと思った。
正臣とは、その後も定期的に会った。
時々会うとその優しさは心地よかった。
そして、二年が経った頃、
正臣から「もし戻るつもりがないなら、正式に別れよう」と言われた。
私は、また一緒にいられるかも知れない、とは言わずに頷いた。
きっと、今はそう思っていても、私はまた正臣の優しさを受け入れられなくなる日が来るだろうから。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
そして、区切りがついて、以前住んでいた土地に戻ってきた。
懐かしいオフィス。
「配属される部署の担当者を呼んできますね」
「ありがとう」
ここで、私はずっと青井君を見ていた。
背筋が伸びた姿、相談してくる時の見上げる眼差し、顔を見合わせた時の笑顔、ブルーサファイアのネックレスをくれた時の真剣な声…。
幼かった。
間違っていた。
愚かだった。
苦しかった。
切なかった。
青かった。
でも、間違いなく恋だった。
まるで全部幻だったみたい。
でも。
幻なんかじゃない。
胸が苦しくなって、ネックレスに触れる。
彼がいないと聞いて戻ることを決めたのに、青井君に会いたいと思ってしまう自分がいる。
「すみません、お待たせしました!」
若い声が聞こえて私は勢いよく、振り向いた。
少し驚いたその男性社員はとても若く、私が退職してから入った人のようだった。
「以前ここで働いてたんですよね?」
「はい。よろしくお願いします」
ちゃんと、しなきゃ。
私は手帳を取り出して、その人の後ろを歩いていった。
その声で振り向くと、宮川さんが立っていた。
「久しぶり」
「まさか戻ってきてくださるとは!うちの部署も安泰ですね」
「いやいや、多分違う部署に配属になるよ。
でも、よろしくね」
あれから二年半ほど経ち、私は元いた土地に戻ってきた。
自分一人の力で生きていくにはお金を稼がなくてはいけないと思っていた時に、前職の上司から声をかけてもらって復帰をした。
ただ、すぐに返事ができなかった。
青井君に会うのが怖かった。
それは、正臣への罪悪感だけではない。
もう私のことなんて忘れている。
もう新しい恋をしている。
そんな青井君を見るのが怖かった。
だから、宮川さんに彼がもういないことを確認してから承諾した。
「そういえば、今もう篠宮さんじゃないんですよね?」
「うん」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
彼……青井君と別れてから、正臣と旅行に行って、青井君との結果はどうであろうと別れようと思っていた。
「私ね、」
「実は正臣を裏切っていたの」と言いかけた私に「距離を置こうか」と正臣は言った。
地元と離れた土地で二人きりでいるとストレスが溜まるし、一旦離れた方がいいんじゃないかとのことだった。
「ごめんね」
そう言うと、正臣は私を見て真剣な表情で頭を下げた。
「幸せにできなくて、ごめん」
涙が溢れかけて、絶対に泣いてはいけないと堪えた。
私には泣く資格なんか微塵もない。
私はこの人を不幸にしたくないとは思っても、幸せにしたいと思ったことはなかった。
正臣は柔らかくも有無を言わせぬ態度で周囲を説き伏せて、すんなりと別居に至った。
誰にも私を責めさせなかった。
どこまでも優しくて愛してくれていた。
その優しさで償う機会を失ったことが、最大の罰なんじゃないかと思う。
私はそれでも地元にも元いた土地にも戻らなかった。
今、戻ってはいけないと思った。
正臣とは、その後も定期的に会った。
時々会うとその優しさは心地よかった。
そして、二年が経った頃、
正臣から「もし戻るつもりがないなら、正式に別れよう」と言われた。
私は、また一緒にいられるかも知れない、とは言わずに頷いた。
きっと、今はそう思っていても、私はまた正臣の優しさを受け入れられなくなる日が来るだろうから。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
そして、区切りがついて、以前住んでいた土地に戻ってきた。
懐かしいオフィス。
「配属される部署の担当者を呼んできますね」
「ありがとう」
ここで、私はずっと青井君を見ていた。
背筋が伸びた姿、相談してくる時の見上げる眼差し、顔を見合わせた時の笑顔、ブルーサファイアのネックレスをくれた時の真剣な声…。
幼かった。
間違っていた。
愚かだった。
苦しかった。
切なかった。
青かった。
でも、間違いなく恋だった。
まるで全部幻だったみたい。
でも。
幻なんかじゃない。
胸が苦しくなって、ネックレスに触れる。
彼がいないと聞いて戻ることを決めたのに、青井君に会いたいと思ってしまう自分がいる。
「すみません、お待たせしました!」
若い声が聞こえて私は勢いよく、振り向いた。
少し驚いたその男性社員はとても若く、私が退職してから入った人のようだった。
「以前ここで働いてたんですよね?」
「はい。よろしくお願いします」
ちゃんと、しなきゃ。
私は手帳を取り出して、その人の後ろを歩いていった。