青の秘密を忘れない
「篠宮さんも来てくださって嬉しいです!」

宮川さんがそう言って笑ってくれたものの、内心ヒヤヒヤしていた。
私が逆の立場で、もし、青井君を好きだったら、正直いい気はしない。
宮川さんに以前、青井君をどう思っているか聞いた時は「青井君はないですよ」と笑っていたけれど。
職場の先輩にそう聞かれて肯定するような女子なんて、うちの職場にはいないだろう。


宮川さんが何杯目かのビールを一気に飲んだ時に突然こちらを向く。

「篠宮さんが結婚してて、残念です」

「えっ、なんで」

青井君の前であまり結婚の話をしたくなかったから、つい言葉に詰まってしまう。
宮川さんはそんな私には全然気付かない様子で続けた。

「青井君と結婚したら、青井青子になれたのに」

私は、顔が熱く赤くなっていくのを感じた。
私はそれを悟られないようにビールを飲み干した。

「もし結婚してなかったら、青井君のこと、どうでした?」

「どうって……。青井君が嫌でしょ」

そう返してから、冗談で返せばよかったと後悔した。

まるで、青井君が嫌でなければいい、みたいな言い方になってしまった。
青井君の視線を感じたが、気付かない振りをして宮川さんを見つめた。

「み、宮川さんこそ、あお……」
「私、終電早いのでそろそろ出ますね」

やっと言葉をつないだ私に気付かずに、宮川さんはそう言って帰り支度を始めた。

「そうなの?じゃあ、私も」
「いや、篠宮さんはまだ青井君と飲んでて大丈夫です!」

宮川さんは私にお札を握らせると、一礼して走って出ていった。

「私たちもそろそろ出ようか」

青井君の方を見れないままそう言うと、「はい」という笑っていない声が聞こえてきた。
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