青の秘密を忘れない
今思えば、きっと恋に落ちるきっかけを待っていた。

たとえば飲み会での会話でなくても、もう、落とし物をして手が触れ合ったとか、残業している時にコーヒーを差し入れてくれたとか、そんな些細なことでもきっと同じことが起きていた。

そう思うくらいには、無自覚にもっと前から彼を好きだったのだと気付いた。


「篠宮…青子さん、ですよね」

四月一日の朝、その声で勢いよく振り向いた私に、彼は屈託なく笑った。

「青井永と申します。僕たち、青青コンビですね」


多分その瞬間から、もうずっと惹かれていた。

人を好きになることに理屈なんていらないのだと痛感する。

一線引いていると自分に言い聞かせながら、本当は誰よりもずっと彼のことが気になっていた。

私は夫に愛されて幸せだ、と自分に言い聞かせていたのに。
心のどこかで気が付かないようにブレーキをかけていたのに。
同じ場所にいられるなら、むしろ関係が壊れるようなことしなかったのに。
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