イケメン富豪と華麗なる恋人契約【番外編】
一年ちょっと前、初めて会ったときの千尋は“見た目はいいけど何を考えているのかさっぱりわからない”という男性だった。
そんな彼と新居――それも新婚用の食器を揃える日がくるとは。

(ううん、ちょっとは夢見たかも……だって、夢でしかありえないって思ってたから)

クールな表情が崩れ、蕩けるようなまなざしを向けられるようになって、日向子はときめきっ放しだ。
思わず、手にしたティーカップを抱きしめそうになる。

「ん? “向日葵シリーズ”はやめて、そっちで揃えるんですか?」

千尋に言われ、ハッとして手元を見ると、彼女が手にしていたのは淡いブルーのレース柄のシリーズだった。
それも上品で素敵なシリーズだが、新婚向きというより、年配の主婦がいる家庭向きかもしれない。
日向子はそーっと棚に戻したあと、

「あ、いえ、向こうにはお客様がいるんですよ。割り込んでいくのはちょっと恥ずかしくて、空くまで他のを見てようかなぁって」
「ああ、それなら、あっちのブライダルサロンでも見てみましょう。都内のほとんどの式場を取り扱っているようですよ」

ウエディングドレスが正面に飾られたブライダルサロン。
日向子も気になってはいるが……。

「でも、こういったデパートのブライダルサロンって、なんとなく、敷居が高くて」

自分名義のプラチナカードを持つようになっても、どうしても節約感覚が抜けない。
お買い物はポイントアップの日を狙って行くし、スタンプカードもつい集めてしまう。
このデパートにしてもそうだ。
“望月”を名乗れば、すぐにも外商担当の人が飛んできて、特別な応接室に案内してくれるだろう。食器でも、ウエディングドレスでも、見たいと言えばデパート中から商品を集めてくれるのはわかっている。
特別扱いに憧れていたときもあったが、それが現実になると話は別だ。
日向子が気後れしていると、千尋は彼女の頭をポンポンと撫でてくれた。

「大丈夫。どんなときも、私があなたを支えます」
「……千尋さん」

たぶん、目がハートになっていると思う。
彼はそんな日向子の手を掴むと、指を絡ませ、ギュッと恋人繋ぎをしてきたのだ。

(え? やだ、こんな場所で!?)

戸惑う日向子をよそに、繋いだ彼女の手に千尋は唇を寄せる。
そして彼女の瞳をみつめたまま、ささやいた。

「それに、こういったブライダルサロンですが……意外にも、お得感満載なんですよ。日向子の大好きなデパート限定の特典がいっぱいあります」
「千尋さんっ!?」
「さあ、お得な式場を探しに行きましょう」

日向子は彼に引っ張られるようにしてブライダルサロンに向かって歩き出した。
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