エリート御曹司と愛され束縛同居
……私は守られてばかり、逃げてばかりじゃない? どうして自分で戦おうとしないの?


心の中でもうひとりの私が私に問いかける。


大事な人に気持ちをきちんと伝えなくちゃ。


なぜ大人になるとあれこれ余計な思念にかられて、そんな簡単な行動ひとつできなくなるのだろう。

幼い頃はただ真っ直ぐに『好き』を迷いなく伝えていたのに。

「圭太、ごめん。そんな風に言ってくれてありがとう。私、遥さんの傍にいたい。遥さんが好きなの」

すべてのしがらみを取り払った本心。

本当に望んでいたものはこんなにもシンプルだった。

「……答えは簡単に出ただろ? それでこそ澪だよ」

一瞬浮かんだ寂しそうな表情は気のせいだったのだろうか。

ふわりと相好を崩して圭太は私を前に押し出した。勢いあまって傾いだ身体を大好きな人の手が受けとめてくれる。

「振られたので帰ります。先輩、俺の分まで澪を幸せにしてくださいよ?」

どこまでも明るい口調でそう言って、ドアへと向かう。

「……当たり前だろ」

「け、圭太! あの、ありがとう」

背中に声をかけると幼馴染みはひらりと片手を上げてドアを閉めた。


「……澪、大丈夫か?」

今まで聞いた中で一番心配そうな声が頭上から降り注ぎ、ギュッと胸の中に閉じ込められた。

ほんの少しの時間離れていただけなのに安心する温もりと香りに心が震えた。
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