エリート御曹司と愛され束縛同居
「辛い思いをさせてごめん」

「なんで遥さんが謝るの? 謝らなきゃいけないのは、勝手に不安になって逃げて、きちんと話そうとしなかった私よ」

伝えたい気持ちがたくさんある。謝りたい気持ちもたくさんある。

なのに気持ちばかりが急いてうまく言葉が出てこない。

「ごめんなさい、弱虫で意気地がなくて、覚悟ができなくて。本当はずっと恐かった、遥さんの隣にいるのが私でいいのか自信がなくなっていたの。好きだって言ってくれて、傍にいられて嬉しかった。だけどこれがずっと続くのかわからなくて、願っているのに否定されたらと思うと口にできなかった」

吐き出した気持ちはとても情けないものばかり、それでも精一杯伝えたい。

本心とどれだけこの人を愛しく想っているのかを知ってほしい。


「……だからお兄さんの件も話さなかったのか?」

一段と低くなった声に思わず頭を上げると、整った面差しを少し歪めた遥さんと目が合い、ゴクリと息を呑む。

彼の胸に置いた手が微かに震える。

「……ここでする話じゃないな、とりあえず帰ろう」

視線を逸らして私の身体を解放する。

離れていく温もりに不安と寂しさを覚えてしまう。

きちんと弁明しなくては、そう思えば思うほど気持ちが空回りして言葉が出てこない。

「あ、あのっ遥さん、聞いて欲しい話があるの」

私の手を引き、ドアの外に出ようとする背中に声をかけると、一瞥してすぐに真正面に向き直る。

「……帰ったら聞く」
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