エリート御曹司と愛され束縛同居
「……人が、見てるから」

手を離そうとした理由だけを簡潔に伝え、距離を取ろうとする。

今はそれしか言えないし、この気持ちを言葉にしてしまったらきっとみっともない気持ちを晒してしまう。

「気にしなくていい。むしろ澪が特別な存在だと周囲に知られたほうが有難い」

「なんで……? 怒ってるんじゃないの?」

「澪に怒るわけないだろ」

なぜかムッとしたように言われてしまう。

「だって、急に帰るって……」

「……それは……ああもう、とりあえず帰ろう」

そう言って踵を返した遥さんの耳が真っ赤に染まっていた。

その変化が意外過ぎて瞬きをするともう一度振り返った彼が軽く睨みながら耳元で囁く。

「帰ったら覚悟しろよ?」

その妖艶な声にゾクリと背中が痺れた。

覚悟しろ、なんて物騒な台詞を言われているのにその声が心に甘く染み込んでいく。

意味もわからないまま私を翻弄するこの人は、やっぱりいつもの副社長だ。


タクシーに乗り込み、自宅住所を告げた美麗な横顔に見惚れそうになってしまう。

視線に気づいたのか、少しだけ首を傾げて、繋いだままになっている指にギュッと力が込められた。

よくわからない状況だというのにその温もりにすべてを忘れて溺れそうになる。
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