エリート御曹司と愛され束縛同居
「あの頃はまだ澪を男だと勘違いしてたからな……よくお前の話をしていて、気心の知れた幼馴染みとはいえ随分世話をやくなと思ってた」

「その時に確認してくれたらよかったのに」

「相手との距離感なんて人それぞれだし、俺には幼馴染みがいないからそういうものなのかと思ってたんだよ」

「……遥さんも充分細かい部分にこだわらない人だと思う」

胡乱な目で言い返すと長い指で軽く鼻をつままれる。

「……お前、言うようになったな。でも澪の話を普段から聞いていたから圭太の申し入れがあった時もこの部屋を任せたいと思ったし、知り合いでもないお前に勝手に親近感を感じていた。そんな感覚は初めてで……あの頃から澪とはこうなる運命だったのかもしれないな」

真剣な目で見据えられて、目が逸らせない。

ドクンと鼓動がひとつ大きな音をたてた。


私が秘書に推薦された時は、前職の担当業務を聞かなかったせいもあり性別を疑わなかったと言われた。

基本的な部分は是川さんに任せていたらしい。

慎重なように見えて意外とおおまかな人だが、それだけ自身の部下への信頼の表れでもあるのだろう。

さらり、と大きな手が髪を優しく撫でた。

「とは言っても、お前はなかなか俺の気持ちに気づかないうえ、逃げ出そうとまでするし苦労は尽きないが」

「そ、そんなのわかるわけないじゃない」

「そうか? 俺は植戸様の前で将来を一緒に歩む相手はお前しかいないと言っただろ?」

「あれは……気持ち以外は植戸様に諦めていただくための演技かと……」


弱々しく返答すると周囲が凍りつくような冷え冷えした眼差しを向けられる。

一気に室内の空気が冷たく変わったような気がする。
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