エリート御曹司と愛され束縛同居
「桃子さんの件は改めてきちんと植戸様に申し入れをするつもりだ」

「……でも、事業が……」

思わず口にしてハッとする。この話は軽々しくできるものではない。

「……澪、その件は既に圭太から報告を受けている」

「えっ、いつ?」

「お前たちがラウンジに向かう途中で聞いた」

そう言われてタクシーの中でスマートフォンを操作していた幼馴染みの姿を思い出す。

きっとあの時に報告していたのだろう。

「大事な恋人ひとり守れずに事業を采配する資格はないし、なにより澪を犠牲にしてまで手に入れたい仕事なんてない。そもそも桃子さんにはなんの権限も影響力もないんだ。合意した内容は正式な契約として既に締結済だし、今回の件は脅迫ととられてもおかしくない。弁護士を志しているならそれくらいわかるはずなんだが」

「や、やめて。大事にはしないで」

咄嗟に引き留める。

桃子さんは遥さんが好きなだけで、ただその方法を間違えてしまった。

恋は盲目と言われるように想いが一途過ぎてブレーキが利かなかった、それだけだ。

「彼女は偶像の俺を好きだからな」

「……気づいてたの?」

躊躇いがちに口にするとフッと眉尻を下げる。

「まあな、俺としては正式に植戸様に苦言を呈して謝罪を求めたい。お前を追いつめて窮地に陥れようとしたんだ」

その声には静かな怒りがこもっている。
< 163 / 199 >

この作品をシェア

pagetop