エリート御曹司と愛され束縛同居
大学を卒業し、この会社に入社した私は総務課に配属になった。

二十五歳まで総務課で事務仕事に携わっていたのだが、当時受付担当の先輩方が結婚や諸事情で数人同時期に辞める事態になった。

一気に人手不足になり、ピンチヒッターのような状態で私に白羽の矢が立てられ、受付業務担当に変わった。

事務が好きだったので人手不足が解消され、後輩が育成された時には元の業務に戻してほしいと再三願い出ていた。


「総務課ではないんだけど、岩瀬さんに是非きて欲しいと願い出ている部署があるんだ」

「あの、それは辞令が出ているという意味ですか?」

突然の話に驚きを隠せない。


私に来てほしい? そんな部署があるのだろうか?


「いや、辞令を出してもいいのだけれど無理強いではなく、あくまでも希望を聞きたいと言われてね」

にわかには信じがたいが希望を聞いてくれるのなら有難い話だ。けれど恐らくほぼ辞令に近いものなのだろう。

「その部署はどちらですか?」

問いかけると、上司は少し言いにくそうに口を開いた。

九重(ここのえ)株式会社秘書課なんだ」


九重……? 秘書課……?


思いもしなかった返答に言葉が出てこない。信じられずに瞬きを数回繰り返す。

「こ、九重って……あの九重、ですよね? なにかの間違いじゃないですか?」
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