エリート御曹司と愛され束縛同居
九重株式会社を主軸とした九重グループの規模は日本のホテル業界ナンバーワンとも言われ、海外進出も華々しくその名を世界に轟かせている。

世界の主要都市に大規模なホテルを幾つも建設し、運営している。

ちなみに九重株式会社は我が社の親会社にあたる。

当社社長が九重株式会社経営陣と親戚関係にあるので、他部署とは仕事上接点があるかもしれないが、私にはまったくない。

そもそも秘書課に異動を請われるほどの能力はないし、グループの中心的な役割を担う九重株式会社の秘書課に勤務する方々はそれこそ精鋭ぞろいだろう。私が戦力になるとも必要とされているとも到底思えない。


ゴクリと喉がなる。

「あの、私、秘書資格も持っておりませんし、秘書経験もございませんが……」

念のために告げる。

恐らく既に人事資料に目を通している上司に話しても意味はないとわかっていても、言わずにはいられなかった。

「それはそうなんだが、どうしても岩瀬さんに来てほしいらしくてね。なんでも先月秘書課の女性がご主人の海外赴任で退職されて、ほかにもやむを得ない理由で退職予定の方もいるらしく人手不足だそうだ」

以前、私が受付に派遣された時と同じような状況だ。

大変なのだろうと心底思うけれど、まずは自社で検討すべきでは、と勝手ながら思ってしまう。グループ会社とはいえ、私は一応他社の人間だ。
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